ツクツクボウシが、耳障りだ。泣き声がどこか自分の短い命を憂いているかのようで、その哀愁を誘う泣き方が気に入らない。
無人の神社。ぼんやりと境内の石段に腰を下ろし膝に肘を乗せ、美鶴は頬杖を付いた。知らぬ間に瞼も落ちる。その頬に、ヒンヤリと冷たさが押し当てられた。
っ!
「寝てた?」
両手に一本ずつ、清涼飲料水のペットボトルを手にした涼木聖翼人―――ツバサが、小首を傾げる。
「この暑い中で、よく寝れるね。夜眠れないとか?」
「別に」
簡潔に答えて、一本受け取る。
「おごりだから、気にしないで」
ツバサは勢いよく蓋を捻り開け、ゴクリと喉に流し込む。美鶴もそれにならって、口をつけた。
蒸した喉に、涼が気持ちいい。
「ちょっとたくさん買い過ぎたかな?」
紙袋を足元に置きながら、美鶴の隣に腰かける。そうして上目遣いでこちらを伺う。
「別に腐るもんでもないし、一度にたくさん買った方が送料タダになるからさ」
「あぁ…」
今度は曖昧に答えて、チラリと中身を見る。
詰め替え用のシャンプー。店頭ではなかなか見かけない、珍しい製品。
銀梅花の香り――――
きっかけは、駅裏の商店街でだった。
偶然見つけた、銀梅花の香りのシャンプー。珍しい商品で、量販店などには並べられていない。商品に記載されている販売元なども、聞いた事のない会社名だ。
量が少なくなってきたので、買い足さなければならない。だが、どこの店へ行っても見つけられない。
他のシャンプーでも――――
そう思いながらも、なぜだかこの香りが諦められない。結局、最初に見つけた店を再び訪れることにした。
一つだけ残っていた。
これで売り切れだろうか?
そう思うと、遣る瀬無い思いが全身を覆う。
なぜこの香りに拘るのだ?
叱咤にも似た声でもう一人の自分が問う言葉に明確な答えを出せぬまま、とりあえず最後の一つを買い求めて店を出ようとした時だった。
「あれっ!」
元気のよい声に、思わず足を止めてしまった。
ワンポイントのピッタリしたTシャツにジーンズという、彼女らしい出手たち。
夏休みに入って美容室へ行ったのだろうか。髪の毛はさらに短くなっている。
だが、それでも耳元には、黄色の髪留め。
その髪を無造作に掻きあげながらツバサは、通り過ぎようとしていた店の中へと一歩入ってきた。
「美鶴じゃん」
首で軽く応じるだけ。その態度に、だがツバサは気を悪くした様子もない。
「何? 買い物?」
JRと私鉄が交差する木塚駅周辺は、この辺りでは一番の繁華街。だが駅裏の商店街は、駅の正面に展開する再開発事業から取り残された地域。店も小さく古いところが多いので、人通りも少ない。
このような店に入る機会など、あまりないのだろう。ツバサは物珍し気に辺りを見渡しながら、両手を腰に当てた。
「こんなところに来るんだ」
「いつもってワケじゃないけどね」
「だよね。わざわざこんなところまで、買い物のために出てくるような美鶴じゃないもんね」
ぐっ……
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